お帰りなさい


6月1日

朝7時、父さんが朝食前にお散歩に付き合ってくれた。
小雨が降っていたので、父さんは青い傘をさしていた。
遊歩道の奥まったところで風子がしゃがみ、父さん、風子の落し物を拾うために、
傘を広げたまま地面に置いて柄の先の部分を風子のリードにひっかけた。
そして父さん、風子のリードを放したの。
風子が動くとガサッと傘が大きな音をたてたの。
風子、もうびっくりして、一目散に逃げたよ。
大きな傘がどこまでも風子を追ってきたよ。
父さん、風子に追いつくことができなくて、お家に戻って母さんに応援を頼んだ。
母さん、風子は怯えたのに違いないと言った。
開いた傘をひっぱったまま走って、交通事故にあったらどうしましょう・・・。
父さん、柄の先をリードの持ち手部分にひっかけただけで結んでいないから、
走っている間に傘は落ちるはずだと考えた。
父さんと母さん、二人で一緒に方々探し回ったけど、風子はいなかったし、
傘も見つからなかった。
多摩川まで2往復した。付近の幹線道路で事故がなかったか調べた。
いろいろな人に尋ねて廻ったけど、風子を見かけたという人には出会わなかった。

父さん、会社を休んで風子を探し続けたよ。
5時間以上歩き続けて足に豆ができたけど、風子はどこにもいなかった。
母さん、風子がいなくなってから1時間後、いったん家に戻って狛江市役所、
動物愛護センター、調布警察署と念のために成城警察署にも届け出た。
近くの動物病院にも連絡した。
しばらくして調布警察署から電話があった。
交通事故に遭って病院に運ばれたワンちゃんの風貌がお宅のワンちゃんに
似ているようです・・・。
母さん、すぐにその病院へ問い合わせたけど、そのワンちゃんは先週金曜日に
保護されたということで、風子ではなかった。

その頃風子、迷子になってたの。
走り続けてふと気がついたら、知らないところにいた。
お家を探し続けていたら、風子のお家によく似たお家があった。
お玄関の前でじっとしてたら、お仕事にいくためにおばちゃんが出てきた。
優しそうなおばちゃんだったので、風子、自分からお手をしたの。
お座りもできる?っておばちゃんが聞くから、お座りしてみせたの。
おばちゃん、すぐにお家の中に戻ってどこかへ電話してた。
ごめんね、おばちゃん、お仕事にいかなければならないから時間がないの。
でも安心してね。もう大丈夫よ、っておばちゃんが言った。
すぐにおまわりさんがパトカーでやってきて、風子を大きくていかめしい感じの
する建物まで連れて行った。

父さんと母さんは風子が帰ってきやすいように、玄関前の門と庭へ通じる門を
開けたままにしていた。母さんは何度も何度も外を覗き、周辺を歩いた。
父さんはどこまでも歩いていき、時折家に電話を入れたけど、疲れ切ってお家に
戻った。
風子がいなくなって6時間が経った頃、成城警察署から電話が入った。
白く大きくて背中にうっすらと茶色が入っているワンちゃんをたった今保護しました。
耳が立っていて尻尾がまっすぐのおとなしいワンちゃんで鑑札をつけています。
首輪もリードも言われていた通り赤で、リードの裏地は茶色です。
傘は見当たりません。

鑑札の番号は風子の登録番号と一致した。
父さんと母さん、すぐに車を飛ばして迎えに来てくれたよ。
風子は広い物置き場につながれたまま、一人で待っていたの。
お腹がすいたでしょうと、母さん、ゆでた鶏肉を小さく切ったものを手から食べさせてくれた。
父さんは大きなタオルを持ってきてくれた。

風子が帰って来たお祝いだと言って夕食は牛肉がトッピングされていたし、
ケーキも分けてもらったよ。
父さんも母さんも何度も撫で撫でしてくれたよ。



6時間半ぶりに家に戻ってきた風子です。

好物のお肉を茹でました。

風子は父さんの顔を見て、

それから母さんのほうを見ました。

風子、よく帰ってきたね。


お帰りなさい、風子・・・。
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