チェコのクリスマス




チェコには赤いとんがり帽子と白いあごひげのサンタクロースは来ない。
代わりに12月5日に聖ミクラーシュが天使と悪魔を従えてやってくる。
街の広場や交差点、地下鉄など至る所に聖ミクラーシュは現れ、子供たちにこの一年間よい子に
していたかどうかを尋ねるのだ。真面目に勉強をし、親の言いつけをよく守った子は天使からお菓子がもらえるが、
不真面目だった子は悪魔に意見をされたあげくに石炭を渡される。なかには音楽の勉強を少しサボってしまったなどと
はにかみながらこと細やかに報告する子供もいたりして見ていてなかなか微笑ましい。

クリスマスイブには家族水入らずで鯉のフライとロシア風ポテトサラダの夕食を楽しむ。12月の中旬から生きた鯉が市場で
売られるようになり、その場でさばいてもらって切り身を買っていく人、また生きたままを購入し、数日間家のバスタブで泳がせて
おいて当日調理する人とさまざまであるが、何日間か生きた鯉を見続けていると情が移り、かわいそうだから殺さないでと
子供たちに泣きつかれたり、さばく音を聴きたくないからと調理する人間以外はテレビの前から離れなかったりするので、
切り身を買っていく人のほうが多いそうだ。

食事が終わるとどこからともなく鈴の音が聞こえてきて幼子イエズス・キリスト(イエジュシェク)が家族全員にプレゼントを
持ってきてくれたのだと子供たちは胸をはずませる。別室のクリスマス・ツリーの下にはいつのまにかたくさんのプレゼントが
置かれていて、自家製のクリスマスクッキーをほおばりながら皆でプレゼントの包みを一つずつ開けるのだ。
家族によってはツリーの飾りつけももイエジュシェクがすることになっており、イエジュシェクは決して人前に姿を現さないので
親がいろいろと工夫をすることになる。

チェコにはクリスマスケーキというものはなく、代わりに家庭でクリスマスクッキーを焼く伝統がある。
子供の頃から母親を手伝って作り方を覚えるのだそうだがナッツやドライフルーツ、チョコレートなどをふんだんに使って
焼き上げた何種類もののクッキーはまさに小さな芸術品とも言うべき凝り様で香ばしく、大変おいしい。

お腹がいっぱいになったところで洗面器に水をはり、くるみを半分にかち割ったものに小さなろうそくをたて、それを家族の
人数分用意して水の中央に輪になるように浮かべる。そして全員が見守る中で輪からはずれていったろうそくの持ち主は
来年家族から離れたところへ行ってしまうと信じられている。若い者なら留学や転勤などの可能性もあるが、
親や祖父母の場合は死を暗示することもあり得るとしてこの伝統を忌み嫌う者もいるようだ。

イブには墓地に花を備える人も少なくない。店はおおかた締り、公共の交通機関も本数が少なくなるのでたいていの人々は
家庭で暖かいひとときを過ごすようだ。

チェコの一年は大晦日に花火を打ち上げ、二十四時に新年の挨拶を交わすことで締めくくられる。
風子と毎日歩く公園にも深夜に愛犬家がシャンペン持参で集まる慣習があるようなので、
私たち夫婦もとっておきの日本酒を携えて参加しようかと思っている。



 

     チェコ人に頂いた手作りのクリスマスクッキ-
                      


旧市街広場のクリスマスマーケットの風景















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